数年前にお友達から聞いたお話をひとつ。うろ覚えながら、思い出したので書いておきます。
彼女がまだ20代だった頃、従妹と一緒に祖母の家へ車で遊びに行くことになりました。祖母の家は熊本の山の中。暑い夏の夜、真っ暗で曲がりくねった山道だったので、車の窓を全開にして大音響で音楽をかけながらブイブイ運転していきました。
やっと祖母の家に着きました。夜中なのですぐに従妹と並んで布団に横になったものの、なかなか寝付けないでいました。しばらくすると、家の外から足音がしてきたのです。家の周りをぐるぐると歩き回っているようです。動物の足音ではなく、人間の大人が歩いているような音でした。
玄関を開ける音がしました。隣の従妹は、なぜかグーグー寝ていて起きません。怖くなって頭まで布団に潜り、震えていると、別の部屋のふすまを開ける音がしました。
足音は段々と自分の寝ている部屋へ近づいてきました。
ついに「ここか!」という男の声がして、ふすまが開きました。
布団の中で「ごめんなさいごめんなさい、もう山の中で夜中に大きな音を出しませんから」と泣きながら何度も謝りました。あまりにも怖すぎて大きな声は出せなかったそうです。ずいぶんとそうして泣いていたら、気づいたら朝になっていて、従妹が目を覚ましました。
従妹や祖母に足音の話をしても、まったく知らなかったといわれたそうです。
話を聞いたときは、うーんありがちな恐怖体験だ、と感じたのですが、その時は「怖かったでしょうねえ、とにかく危害を加えらなくてよかったねー」なんてとぼけた返事しかしなかったっけ。ただ彼女の一言が印象的だったので、今でもふとしたときに思い出します。
「あれは山の守り人だったのかも」と。
当時の彼女はちょっぴりヤンチャしてたと言っていました。私と出会ったときは、残念ながら平和好きの清楚なお洒落さんで、もう穏やかになっちゃってました。自衛隊の奥様なので引っ越してしまい、だんだん疎遠になってしまいましたが。
こっちに住んでいたとき芦ノ湖で初めて龍を見たそうです。それから時々龍を見るようになって、不思議な体験もしたみたい。今も熊本で元気に過ごしているはずでごわす。熊本の女性は芯はしっかり者だからね。